街角のコミュニケーション

世の中コミュニケーションだらけ。

「キャバリア」という犬の名前がどうしても出てこないひと。

先週の休日、娘(愛犬)を連れて近所を散歩していた。娘を連れていると、2回に1回は見知らぬ人に話しかけられる。もちろん、これらの人びとは娘に関心があって、娘を目がけて近づいてきて、話しかけてくる。第一声のほとんどは、娘の容姿をみて「かわいいですね」と、ほめてくれるものだ。満更でもない私は「ありがとうございます」となけなしの笑顔を振りしぼって応えている。そして、このやり取りの後に続くのは、たいていは娘の犬種についてである。「なんという犬種ですか」などと聞かれるのだ。うちの娘の正式な犬種名は『キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル』。知名度的には、中の下くらいだろうか。世間では「キャバリア」という略称で通っている。この犬種を知っている人なら、「キャバリアですね」とか「キャバちゃんですよね」というリアクションで接してくることが多い。その日もそんな雰囲気だった。学生らしき二人の若い女性が前から歩いてくる。二人の視線は20メートル前方から、すでにうちの娘にロック・オンしている。やがて二人は足を止め、うちの娘に向かって「かわいい」と言ってほめてくれた。「この子なんていう犬だろう?」片方の女性が、もう一人の女性に向かって聞いた。すると聞かれた女性は「うん、わかる、アレだよ、アレ・・・」。その名前を知っているようだが、なかなか口に出てこない。私が聞かれたわけではなかったので、しばらく静観することにした。というか、この女性に花を持たせてあげたいとも思った。友だちの前でちょっといいとこ見せられるのではないか。そんな老婆心も手伝っていた。「・・・んとね、アレ・・・」。脳の海馬を刺激して、懸命に記憶を呼び起こそうとしている。たった数秒のことだったが、やたらと長い時間に感じたのは私以上に、この女性だったろう。そろそろ助け舟を出そうかな、なんて思っていたその矢先、彼女はハッとした表情を浮かべると興奮気味にこう言い放った「そうだ、チャールズ!チャールズよ!!」。度肝を抜かれていた。うちの娘を飼って12年。この手のコミュニケーションはたくさんしてきたが「チャールズ」と言われたのは初めてだ。「チャールズ?」と連れの女性は明らかに怪訝そうである。するとチャールズ女性は、自信がなくなったのか、私の方に振り向くと同意を求めてきた。「・・・ですよね?」。私はとっさに「そうです」とこたえていた・・・。犬の名前なんて、覚えなくても生きていけるしね。それよりもこの場面では、彼女の面目を保ってあげたほうがよさそうだ。まあ、間違ったこたえではないし、今日のところは、これでいい。願わくは、彼女がこの先、どこかで「キャバリア」を思い出してくれれば、尚、それでいい。