街角のコミュニケーション

世の中コミュニケーションだらけ。

本能を叫ぶ少年に心を揺さぶられる

1月のある日のこと。柄にもなく定時で仕事を切り上げ、チャリンコで帰路を辿っていた。時刻は18時をすこし過ぎており、日はとっぷりと暮れている。繁華街を抜けて住宅地に差しかかると、狭い路地に張り付いた家々から、夕餉支度の香りが漂ってくる。幸せな気分だった。日々変わりゆく街並や景色のなかで、変わらないモノに出会えた気がしたから。この感覚は、私を一気に昭和のパラダイスへと連れ去っていく。この感じ、いいな。しばらくすると、前方からこちらに向かって歩いてくる人影を目視した。街灯に照らされたその人物は、どうやら小学生の男の子のようである。下校には遅すぎるから、塾の帰りか、友達の家からの帰りだろう。男の子は何かを大声で叫びながら路地の真ん中を悠然と歩いている。やがて、男の子とすれ違うために、チャリンコにブレーキをかけようとしたとき、彼が何を叫んでいるのかがはっきりと認識できた。「♪は〜らへった〜はらへった〜」 妙な節をつけながら「腹減った」を絶叫しているのだ。私は目と耳を疑った。こんなガキがまだいるのか!?昭和の風景の中には、こんなガキが溢れていた。学校が終われば、まっすぐ帰宅するわけもなく、日が暮れるまで空き地や神社で遊びまくり、空腹を覚えれば家に帰る。道すがら1人や2人は「腹減った」を叫んでいたし、5、6人の大合唱になることもあったものだが・・・。もうとっくの昔に絶滅したと思っていた風景が、令和の世に生きていたことに、懐かしさを通り越して驚きを感じていたのだ。私はチャリンコを路地の脇に停めて、男の子の背中を見送りながら「腹減った」の見事な独唱に聞き入っていた。鼻孔の奥がちょっとだけツンとした。