街角のコミュニケーション

世の中コミュニケーションだらけ。

クソ役に立たない経験をさせられる同僚といつまでも人を育てられない組織

 

「仕事がなくて、困ってるんですけど」

 

 入社3年目の男性社員が私に相談してきた。

この男性社員は28歳の転職組で

入社して間もなくまったく畑違いのグループ会社へ出向に飛ばされ

今年の4月にようやく戻ってくることができた。

どう考えてもまともな人事じゃない。

私は立場上、この社員に対して何の責任も権限も持っていない。

管理職でもないし、組織上のリーダー的な役割を任されているわけでもない。

もちろん一緒に仕事をしたことは一度もない。

ただ、彼が何を目指してこの会社に入ってきたのか

どんな職制に就きたいのかということは私も理解していた。

私が管理職の上司に相談したのかと尋ねると、相談はしたけど

「今は君に見合った仕事がないから、もうしばらく我慢してほしい」

と言われたという。明らかに放置されている。

確かに、この2ヶ月というもの彼は暇を持て余している様だった。

多少は気になっていたので、様子を窺ってみていると

就業中はひたすら業界誌を読み耽っているか

ネットで何らかの情報を漁っていることが多かった。

「でもさ、まったく仕事がないわけじゃないでしょ?」と私。

すると、「あるには、あるんですけど・・・」と歯切れが悪い。

どんな仕事?と促してみると「湯呑み茶碗を選んでいます」というのだ。

何だそれ?と言ってしまった。聞けばこういうことらしい。

とあるイベントのノベルティとして湯呑み茶碗を企画しているらしく

コストはどうとか、クライアントのロゴは入れられるかとか、◯◯焼きが適しているとか

そんなことをさせられているというのだ。

「益子とか有田とか陶器にめちゃくちゃ詳しくなりました」と彼。

彼がネットで何をしていたのか、納得できた。

でも、それってオレらがやる仕事なの?

もちろんこういうこと仕事を業にしている人はたくさんいるのだろう。

それはそれで専門性を必要とする大変な仕事だと思う。

けれど、彼を含め私たちの本業は、もう少しコンテンツ制作寄りの仕事をしている。

画を書いたり、文章を書いたり、デザインしながら

一つの表現物を創り上げる組織なのだ(私はそう思っている)。

決して「湯呑みの目利き」を育てるような組織ではない。

曲がりなりにも彼はライター志望である。

若いとは言えない歳だが、ちゃんとビジョンがある。

まったく、組織は何を考えているんだか。念のために私は上司に掛け合ってみた。

すると「やってもらうこともないし、いい経験だから(湯のみの仕事)」と素っ気ない。

おいおい、やらせることなんて、山ほどあるだろ。

やらせることなかったら、文章の50本も書かせたらいい。

それに経験だからといって何でもやらせりゃいいってもんじゃないだろ?

それって、「経験だから美容師の仕事してみよう」とか

「経験だから銀行の仕事してみよう」と言っているに等しいよ。

この世界でがんばりたいと思う人間にとって、まったく意味がない。

ここはキッザニアかよ!

これだからこの職場は若い才能が育たない。伝統的に専門職が育たない。

彼らが目指している事とのギャップがありすぎる。

やる気のあるやつはこういう環境にスポイルされて、やがて退社する。

要は、組織が若い意欲を扱いきれないだけなのだ。

そんな光景を幾度となく見てきた。いい加減に目を覚ませば?このボンクラ!と

10年前なら噛みついていたところだが、今はそんなこともしたくない。

「そうですか」と私、「それなら、僕の下に彼をつけてもらえませんか」

と提案してみた。

するとこの上司、俄に目を輝かせ「そう?君がそう言うなら、いろいろと教えてやって」だって。

バカか?おまえ。教えられることなんかねーんだよ。

だいたい「いろいろ」って何だよ、部下の教育について何の計画性もないのかよ

・・・とにもかくにも、彼は私の預かりになった。

今は「湯呑みの目利き」仕事の傍ら、私が与えたライターとしての実践的課題を

日々楽しそうに、こなしている。

前述した通り、私は彼について何ら責任を負う立場ではない。

けれど、そんな姿を見ていると、正直、微笑ましい。

なんだろう、何より私を頼ってきたということに意気を感じているのかな。

そもそも、そんな理由で人の面倒を見る私は甘いのだろうか。

まあ、どうでもいいや、少しはいい事ができた気がするから。


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