キーちゃんを理想のタイプと言っていたヒトの思い出
北澤 豪 愛称「キーちゃん」を理想のタイプというヒトがいた。
今やキーちゃんは、サッカー解説者として様々なメディアで活躍しているが
私にとっては、同世代のサッカー選手として強く印象に残っている。
キーちゃんはタフでよく動く選手だった。
ピッチを縦横無尽に駆ける姿はまさに「ダイナモ」というニックネームに相応しかった。
いいフィールドプレーヤーだったのだ。
ただ、その容姿はちょっと独特で、小柄で豆タンクのような身体
日焼けして黒光りする顔面に張り付く長い髪、どちらかと言えば異形である。
今でもその雰囲気はあまり変わっていない。
当時、キーちゃんの女子人気がどの程度のものだったのかは記憶にないが
あくまで私の主観で見れば、その容姿は決して「モテる男」とは言いがたかった。
(実際はすごく美しい嫁がいらっしゃいます)
事実、私はこれまでキーちゃんのファンだと言う人にお目にかかったことがない。
そんなキーちゃんを「大好き」と言って憚らないそのヒトに出会ったのは
今から5年ほど前のことである。
私にとって、クライアントにあたるそのヒトは
いわゆるアラフォー独身女子で私の仕事の良き理解者でもあった。
年齢の近さもあったと思う、彼女とは妙に馬が合い、たくさんの仕事をいっしょにした。
どの仕事もやりやすかったし、楽しかった。
(実は彼女が、社内調整やら、いろいろと取り計らってくれたおかげなのだが)
だから、彼女と個人的な会話をするようになるのも、そう時間はかからなかった。
とある日、仕事の打ち合わせが終わり、私と彼女は他愛のない世間話をしていた。
そんな流れだったと思う。
「◯◯さんって、どういう男性がタイプなんですか」と私。
すると「キーちゃん!」と彼女が即答。
キーちゃんって、サッカーの北澤ですか?と明らかに怪訝そうな私に
えーっ。やっぱりダメですか?と明るく笑って応える。
「やっぱり」という事は、私以外の人間にも男の趣味についてつっこまれることが多かったのだろう。
彼女自身も自分が“特殊”であることを自覚していたのだと思う。
どこがいいのかと聞いてみるも「うーん・・・何となくです」と
茶目っ気たっぷりに私を煙に巻いていた。
そんな彼女は、もうこの世にはいない。
去年、突然逝ってしまったから。
もう、キーちゃんが好きだという心理を探ることもできない。
ワールドカップが始まってから、キーちゃんをよくテレビで見かけるようになった。
その度に私は心の中で泣きながらつぶやく「◯◯さん、キーちゃん今日も出てますよ」。